厳しい局面にVCは何ができるか。事務局メンバーが抱く、XLIMITへの思い

GBのキャピタリストである都虎吉、冨樫寛隆にXLIMITについて話を聞きました。ここでしか明かされていないプログラムの詳細や、他のアクセラレーターとの違いにも言及しています。

Global Brain

都 虎吉

Global Brain

冨樫 寛隆

2人並んで笑顔を見せるグローバル・ブレインのキャピタリスト都虎吉と冨樫寛隆。

独立系VCのグローバル・ブレイン(GB)が主催する、シリーズA未満のスタートアップ支援を目的としたアクセラレータープログラム「XLIMIT」。

その事務局メンバーであり、GBのキャピタリストである都虎吉、冨樫寛隆にXLIMITについて話を聞きました。ここでしか明かされていないプログラムの詳細や、他のアクセラレーターとの違いにも言及しています。彼らが起業家の皆さんに抱いている思いも含めて、ぜひ感じ取っていただければ幸いです。

厳しい局面だからこそ…XLIMIT立ち上げの背景

──おふたりの経歴やGBでの役割を教えてください。

:前職はZ Venture Capitalでキャピタリストとして働きつつ、COOも務めていました。GBではスマホ証券のブルーモ・インベストメントや、代理店連携SaaSのパートナーサクセス、Webtoonを制作するソラジマなど、ITスタートアップを中心に支援しています。こちらは純投資なのでシリーズAくらいの企業が多いですね。

XLIMITを始めたことで、シード〜上場直前まで幅広いステージの起業家とやりとりさせていただけるようになりました。ステージを横断してスタートアップトレンドを見れるので学びも多く、いい経験をさせていただいているなと感じますね。

インタビューを受ける都虎吉の様子。
都 虎吉:IT分野を中心に幅広い領域でのベンチャー投資と支援を行う。楽天とZ HoldingsでM&Aや事業開発経験を活かし、様々なステージのスタートアップのプロダクト、組織開発、ビジネスモデルに関する支援を数多く実施。

冨樫:私は前職が野村総研で、15年くらいいました。中でも面白かったのは、後半7年くらいで携わった事業開発の仕事です。大規模な事業にいろいろな切り口、角度で関与させていただきました。大変でもありましたが記憶に残っていますし、今の仕事にも活きている経験ですね。

GBではESG経営支援クラウドのシェルパ・アンド・カンパニー、スマートシャトルのNearMe、パート・アルバイトに特化した労務管理クラウドのワークスタイルテックなど、国内のソフトウェア企業を中心に支援をしています。またBizDevチームという部署でDeep Techスタートアップの事業開発を支援しながら、XLIMITにも関わっているという感じですね。

──XLIMITはどのような背景で立ち上がったのでしょうか?

:一昨年〜昨年にかけてWeb3やClimate Tech、Deep Techなどの企業が多く出てきました。こういった企業は世の中に必要不可欠ではあるものの、ビジネスモデルを作るのが大変な印象があります。昨年ごろから株式市場が崩れてしまったこともあり、こうした企業の資金調達はますます厳しくなる見通しを持っていました。

この局面を見て、やはりしっかりとしたアクセラレーターが必要だと思ったというのがきっかけです。シード期の起業家に必要なのはビジネスモデルを作り、PMFさせて、しっかりシリーズAまで伸ばしていくこと。ここの支援をGBがやっていけば、価値のあるテクノロジー企業が日の目を見ずに終わる事態を防げるんじゃないかと。そう信じて始めました。

──冨樫さんはどのような経緯で事務局に参加されたのですか。

冨樫:都さんに誘っていただいて即答で参加しました。これは個人的な思いになりますが、GBはシリーズAの企業をメインにしているので、それより若い企業への支援が難しいことが多いんです。ただ、シリーズAより前のステージでもGBと相互に関わることで価値提供できるんじゃないかと思っていて。

というのも前職の際だと、売上規模が仮に数十億円以上の規模だとしても、立ち上げ期はほぼ一人で推進していく必要があるので、すごく大変なんです。当然全部1人ではできないので周りに協力してもらう必要があるんですが、この「うまく協力を取り付ける」というのが事業においてはすごく重要で。

そしてその観点でいうと、シード起業家はもっと厳しい勝負をしています。大企業のようなアドバンテージのないスタートアップが、1,000億円を超える企業価値を目指して周りの人を巻き込んでいく。そういうシード起業家に、シリーズAからIPOまで幅広いスタートアップを見てきたGBであればもっと多くのものを提供できるんじゃないかと。そういう思いがあって、XLIMITに賛同しました。

インタビューを受ける冨樫寛隆の様子。
冨樫 寛隆:日本国内のスタートアップの投資実行および投資後の支援に加え、BizDevチームとしてDeep Techスタートアップの事業開発支援に従事。

:エネルギッシュで意思決定が早い起業家であっても、プロダクトがローンチできた後にどうしたらいいか分からないという方も多いんですよね。 その時に間違った情報を収集してしまったり、正しい情報を知るまでに時間がかかってしまったりするケースもよくある。そうした優秀な方々に、GBが持つ正確な情報を早い段階から届けてあげるだけでも、価値を感じていただけるのではないかと思います。

こうした思いから、XLIMITの中ではなるべく精神論を語らないようにしています。「経営者たるもの」みたいな考えは変わっていくし、 相対的な話でもある。そういうことではなく、きちんと明日から使える、身になるプログラムをご提供する予定です。

強みは「カスタマイズ性」と「事例」

──プログラムに関しても教えてください。他のアクセラレーターにはないXLIMITの独自性はどのような点にあるのでしょうか。

:大切にしているのは、採択された1社1社ごとにカスタマイズしてプログラムを組むということです。採択企業全てに同じレクチャーを学んでもらうのではなく、個社ごとのニーズにあわせて必要とするプログラムを受けていただいています。

このカスタマイズ性を高くしていきたいのもあって、採択社数は限定しました。20〜30社を採択するアクセラもありますが、XLIMITでは5〜6社ほど。VCとして多くの起業家と関係性を作るのも大切ですが、下手に採択社数を増やして支援内容を薄くしたくはない。

冨樫:私が思うXLIMITの独自性はGBが出せる事例の多さです。投資先スタートアップの支援で気をつけているのは、「こうすべき」という自分の経験則を押し付けないこと。これをやっちゃうと小さくまとまってしまうので絶対ダメなんです。むしろアップサイドではなく、ダウンサイドのところが大事で、「大体これをやると失敗するよ」みたいなことを伝えるべきだと思っています。

このダウンサイドを潰す材料がGBには豊富にあります。300社以上の投資先に対してシリーズAからIPOまでハンズオンで伴走していますし、DDチームも内製化されています。だから事例が中に数多く残っている。これが1番の強みです。

アップサイドの部分は起業家の方に存分にやっていただきながら、ダウンサイドの部分で、それぞれの企業の事情に応じたご支援をしていく。この形がやはり喜ばれるんじゃないかなと考え、プログラムを組んでいます。

2人でインタビューに受け答えする都虎吉と冨樫寛隆。

知識ではなく、気づきを得られる場に

──2nd Batchの内容は1st Batchからどのようにバージョンアップされる予定ですか?

:私たちから一方的に知識を与えるのではなく、起業家の皆さんにアウトプットしていただく機会を多く設けようと思っています。投資家やCVC、GBのマーケティングや知財等の専門家チームとのコミュニケーションしたり、起業家同士でフィードバックしあったりして、自分たちの課題を言語化してもらう機会を作りたいなと。ここで得た気づきに最適なアドバイスをGBから提供する形式を想定しています。

冨樫:もちろんアウトプットするための土台はしっかりと作っていきます。 起業家の方とのコミュニケーションの期間をたっぷり取って「じゃあこういうものが提供できる」「こういうものだったらどうだろう」と話をしながら支援していく形ですね。前回よりもさらにカスタマイズ性を高めた支援ができたらと考えています。

──1st Batchでは先輩CEOとしてラクスルの松本さんとの勉強会が開催されましたが、今回はどのような方を迎える予定ですか?

BASEの鶴岡さんと、BASE FOODの橋本さん、あともう1名を想定しています。 また、XLIMITに参加される方と近いシリーズAくらいの起業家さんと意見交換できる場も設けたいなと。やはりシードからシリーズAに順調に伸ばしていけるかどうかがとても大切になってきますので、実際にシリーズAに到達した先輩CEOの話は参考にしていただきやすいのではないかと考えています。

──今回はメンターに京都大学イノベーションキャピタル(iCAP)さんが参画されたことも大きな変化ですね。

:はい。今回のXLIMITは、課題解決やイノベーションを目指す最先端のテクノロジーを持ったスタートアップを対象にしています。テクノロジーのポテンシャルを正しく把握するためにも、シードからレイターまで様々なステージのテクノロジー企業を支援しているiCAPさんとご一緒することになりました。iCAPさんに限らず、1st Batchの頃から多くの他のVCさんにもご協力いただいているので、強い味方が増えたとご理解いただければと思います。こうした仲間は、特化型のVCさんも含めてどんどん増やしていきたいですね。

「もはやアクセラではない」を目指して

──2nd Batchではどのようなスタートアップとの出会いを期待されていますでしょうか?

冨樫:私は「こういう企業に会いたい」という希望はなくて。XLIMITを通じて私たちが何かを得るというよりも、起業家の方に価値を提供できるようにしたいと思っています。たとえ採択とはならなくとも、応募時のGBとの面談で何かしらお土産を持って帰っていただきたいなと。

なので、できればすべての応募企業の方と面談をしたいですね。1,000社応募が来たら、1,000社面談したいです。シード期は1ヶ月もすれば事業の状況が変わる変化の多い時期。最新の状況を話さないとわからないことも多いので、そこは頑張りたいなと。

:私も同じ思いです。強いて挙げるなら未完成なものに熱意をもって一生懸命工夫していきたいと考えている方ですね。そういう方ならきっと事業を素晴らしいものにできますし、XLIMITの課題も一緒に見つけてくれるんじゃないかなと。

私たちは「目指せY Combinator」という気持ちでやっていますが、一方で、彼らと同じことをやっても仕方がないとも思っています。Y Combinatorを参考にしながらも、彼らとは違う支援のあり方を見つけていくために改善を積み上げていきたいですね。

2人で笑顔を見せる都虎吉と冨樫寛隆。

──最後に、XLIMITをどのような場にしていきたいか改めて展望を教えてください。

:世界に羽ばたくスタートアップを輩出していきたいという気持ちもありますが、それ以上に、起業家の方に 「楽しかったな、学べたな」と思ってもらえるような場にしていきたい です。数十年経って、XLIMITも何十期ぐらいになった時に彼らが「XLIMIT 2nd Batchの卒業生でよかったな」ってずっと思えるものにしていきたいなと。

冨樫:私は、いい意味で「これはもうアクセラじゃないね」って言われるような場になると良いのかなと。起業家と回数を積み重ねて改善していくことで「XLIMITってアクセラと名乗ってるけど、実質やっていることはアクセラの枠組みじゃないよね」と言われる状態になれると面白いと思ってます。そう言われるようになったら、本当にスタートアップと真剣に向き合えたという評価になると思うので。一般的に思われている「アクセラってこういう感じだよね」という観念を変えていきたいです。

アクセラを作るのではなく、XLIMITを作っていくという気持ちですね。そういう心持ちで、私たちも起業家の皆さんとともに成長していきたいなと思っています。